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インド法人税の種類と税率【スライドで分かる】

インド法人税は、インドで事業を行う際に理解しておきたい基礎知識の1つです。

インドの法人税の仕組みは、日本の法人税と比較するとシンプルであると言えますが、ここ数年で基本税率に加え”売上規模の少ない企業への優遇税制”や、経済の落ち込みに対する”経済刺激策の為の優遇税制”等が新しく発表され、複雑化しています。

また、それぞれの税制には様々な条件があるため、企業によって選択のメリット・デメリットが異なり、インド進出したてのナレッジが限られている企業にとっては、いずれの税制を選択することが最適解であるかが難しい判断となっています。

本記事では、インド進出を検討されている、実際に進出されている企業様にインド法人税の全容を理解いただき、インド進出戦略の意思決定や事業計画に伴う納税計画、資金計画に役立てて頂く事を目的としています。

インド法人の基本税率と実効税率

インドの法人税制についてご説明する前に、まずは、インドにおける法人の種類について簡単にご紹介していきます。

法人税率を理解する前に知っておきたいインドの法人の種類

インドでは、法人と一口に言っても、大きく分けて下記の通り①内国法人、②外国法人、③有限責任事業組合の3つの法人があります。

インド 法人 種類

それぞれの法人の種類について具体的に解説していきます。

内国法人:Private Limited(Pvt. Ltd.)

まず、インドにおける内国法人とは、現地法人の設立根拠である会社法に基づいて設立された会社のことを指し、日本などの外国企業の資本であっても「内国法人」として扱われます。これらの会社は、Private Limited(Pvt. Ltd.)で表記されます。

外国法人:支店、駐在員事務所、プロジェクトオフィス

続いて、インドにおける外国法人とは、支店、駐在員事務所、プロジェクトオフィスなどと呼ばれる法人がこれにあたります。

有限責任事業組合:LLP

最後に3つ目の有限責任事業組合ですが、2008年LLP法に基づいて設立された会社を指します。インドにおける有限責任事業組合(LLP)は、利害関係者に対する責任が出資額に限定される株式会社同様の有限責任制度の特色を有する一方で、利益分配比率を出資比率に比例させず、出資者内部での合意で決定できるなどの柔軟さも兼ね備えています。

では早速、インドにおける①内国法人、②外国法人、③有限責任事業組合のそれぞれに課せられる基本税率と実効税率についてご紹介していきます。

法人の種類によって異なる基本税率と実効税率

インドでは、法人の種類によってそれぞれ基本税率、実効税率の税率や構造が異なります。先程紹介させて頂きました①内国法人、②外国法人、③有限責任事業組合のそれぞれの基本税率は以下の通りとなっています。

インド 税務

次に、実効税率ですが、そもそも実効税率とは、法人の所得金額に対する法人税など各種税金の合計額の割合、つまり合計税率のことを指します。まず、実効税率を構成する一つ一つの税率について理解し、自社が支払うべき実効税率の仕組みと税率を把握していきます。

インドにおける実効税率は、基本税率・追加課徴金・健康教育目的税の3つを掛け合わせた数字となります。

実効税率=基本税率×追加課徴金×健康教育目的税

これは、会社の種類や売上高によって以下の12パターンの基本の型に別れます。内国法人はさらに選択肢があり、詳細について次の章「インドで適用される法人税の軽減税率」にて解説しています。

インド 法人税

会社の形態によって、基本税率(※1)と健康育目的税(※2)は固定で割合が決まっています。

気をつけたいのは、追加課税金(※3)によって変動する点です。自社法人の所得(※4)が1000万ルピー以下の場合は免税となり、それを超過する場合は課税対象となります。
※基本税率を用いた場合に限ります。優遇税制選択時は1000万ルピー以下でも免税とならない場合がありますので、ご注意下さい。

カンタン用語解説
※1 基本税率:対象会計期間における総売上高によって判定される法人所得税率
※2 追加課徴金:高額所得法人に課せられる税金(率)
※3 健康教育目的税:国民の健康増進、教育推進に充てられるとされている税金(率)
※4 法人の所得:法人税法上の儲け

 

この基本を理解した上で、内国法人・外国法人・有限責任事業組合の法人別に掘り下げていきます。

インドで適用される法人税の軽減税率

まずは、インドの内国法人です。

インド内国法人の軽減税率

内国法人の実行税率は、基本税率と追加課徴金、健康育目的税で構成されることはお伝えしました。

実は、インド内国法人の場合、「基本税率」以外にも、「軽減税率」と「新税率」という税率を選択することが可能です。これらは、基本税率より税率が低く、結果実効税率の割合が下がり、企業にとってメリットとなる場合があります。

以下の図の①〜③が、これに該当します。それぞれについて解説していきましょう。

インド 新税率

軽減税率適用ルール ①

こちらは、売上規模の少ない企業への軽減税率で、内国法人の売上高が40億ルピー以下の場合に適用可能です。

新税率適用ルール ②・③ 

こちらは、2019年のインド経済が落ち込んだ際に、”経済刺激策として新しく儲けられた軽減税率”です。
全ての法人が②を選択可能で、2019年10月1日10月1日以降設立の製造業においては③を選択できます。これら新税率の詳細については、次の章「日系企業が押さえておきたい内国法人の新税率法の変更点」で更に詳しく解説しています。

上記の表を見てお分かりいただける通り、基本的には新税率を選択する方が法人税の支払う割合は低くなります。

一方で、注意いただきたい点として、新税率が適用されると、最低代替税(MAT)(※5)が免除となる代わりに繰り越しているMATも無くなってしまう点、また別途恩典等を享受している場合はそれらとの併用は出来ない点です。

カンタン用語集
 ※5 最低代替税MAT):会計上の利益の15%が法人税額(控除などを含めた税法上の算出額)を上回る場合は、最低代替税を支払う必要がある。MATはMinimum Alternate Taxの略称。

 

数ある選択肢の中からどの税率を選択するかは、インドの税務に精通している税理士や会計士などの専門家に相談するなど十分に検討して選択する必要があります。現在選択している法人税率や、選択すべき法人税率を把握されていない方は、無料でレビューや分析の対応も行っております。下記よりお気軽にお問い合わせ頂ければと思います。



外国法人と有限責任事業組

次に、インドにおける外国法人と有限責任事業組合の実行法人税率です。

インド 税務

上記の表の通り、外国法人と有限責任事業組合に関しては、適用可能な軽減税率や新税率はありませんので至ってシンプルです。課税対象所得(※6)ごとに上記の通り規定されており、課税対象所得が上がるほど、基本税率の実効税率も上がる仕組みになっています。

カンタン用語解説
 ※6  課税対象所得:課税対象となる所得

 

日系企業が押さえておきたい内国法人の新税率法の変更点

内国法人の新税率の章でも少し触れましたが、ここでは、昨年2019年9月20日に変更のあった新法人税率について具体的に解説していきます。在インド日系の内国法人様にとってもメリットが多いので、押さえておきましょう。

インド 税務 内国法人

要点は上記のスライドの通りです。それぞれのポイントの詳細を解説していきます。 尚、これら変更点は、2019年度(2019年4月1日~2020年3月31日)から適用が可能です。(インドではこれを2019/2020と表記します)

変更点① 内国法人は、法人税率22%を選択することが可能

実行税率(25.17%)=法人税率22%+課徴金10%+健康教育目的税4%

【対象】全ての内国法人
※課税対象所得による税率の変動はない
本税率変更は、インドのニルマラ・シタラマン財務相が、当時の自動車業界における不況を受けて、経済成長の加速と投資促進のために、2019年9月20日に発表した景気刺激策において、法人税率の引き下げを発表しました。

この発表で最もインパクトを受けたのが法人税の減免で、インド内国企業に対して、税務上の控除や各種インセンティブなどを利用しないことを条件に、総収入金額に基づいて25%または30%となっている法人税率を2019年度(2019年4月~2020年3月)以降は22%まで引き下げることとしました。

これにより、新税率を選択した内国法人は、サーチャージ(課徴金、追加手数料)、セス(目的税として機能する税目)を含めた実効税率は25.17%となります。現在、各種恩典等措置を受けている企業について併用は不可で、その措置の終了後に22%の法人税を適用することが可能です。

変更点② 内国法人の製造業は、法人税率15%を選択可能

実行税率(17.16%)=法人税率15%+課徴金10%+健康教育目的税4%

【対象】2019年10月1日以降設立の内国法人・製造業

※課税対象所得による税率の変動はない インド政府が掲げる製造業振興政策「メーク・イン・インディア」の下、新たな製造企業の投資を誘致するため、2019年10月1日以降にインド国内に新規設立される製造企業に対して、法人税率を2019年度から15%とすることとしました。

この税率が適用されるためには、税務上の控除やインセンティブなどを利用しないことが前提で且つ、2023年3月31日までにインド国内で製造を開始することが条件となっています。サーチャージ(課徴金、追加手数料)、セス(目的税として機能する税目)を含めた実効税率は17.16%となり、MATは免除となります。 該当の内国企業の製造業、とくに大規模事業者にとっては、税制メリットが得られるようになると言えるでしょう。

変更点③ 内国法人の製造業は、法人税率15%を選択可能

新法人税を選択した場合、所定の税控除は利用できなくなります。MATもそのうちの1つです。基本税率が30%等と法人税が高額であったインドですが、新税率は、インド進出をご検討される企業や既存の日系在インド企業にとっても、メリットのある変更点と言えます。


本記事では、インドの法人税の税率に関してご説明をさせて頂きました。一見複雑に見えますが、本記事の情報と自社の状況を正しく把握出来れば適切な法人税の選択は難しい事ではありません。

記事内にも記載しましたが、もし自社が現在使用している法人税がわからない、現状どれを選択して良いのかわからないという事がありましたら、アドバイスさせて頂きますのでお気軽にお問い合わせ頂ければと思います。

 

古東 翔二朗(インド事業責任者)

税理士法人日本経営(現 日本経営ウィル税理士法人)に 入社後、主に税務顧問・財務コンサルティング業務に従事し、2016年よりタイの提携事務所に2年間出向。日系企業の進出支援や記帳代行サービス、保険業務の日本人コーディネーター業務を行う。 2018年11月よりインド(デリー/グルガオン)へ赴任。

【免責事項】
本記事でご提供するアドバイス及び情報等は、記事作成時点で私どもが把握している事実及び情報、法律等に基づいています。また、本記事内でご紹介させていただいた内容のうち、法律・制度に関するものは、一般的な内容を分かりやすく解説したものです。貴殿の実行及び意思決定等につきまして、弊社は助言の範囲を超えるものではないことをあらかじめご了承ください。  

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