本記事では、2019年中に行われた、インドでの会計・税務に関するアップデート内容を取り上げ、その中でも、日系企業の皆さんに知っておいてほしい情報をまとめました。
日本経営が注目するアップデート内容をご紹介するほか、2019年のアップデート内容から考える傾向と今後についてもご説明します。
【2019年】インド会計・税務アップデートの日本経営的注目ポイント
それでは早速、2019年内にインドで行われた、会計税務に関するアップデートの内容について抜粋してご紹介していきます。2019年に行われた重要なアップデート内容4つのうち、本記事では後半の2つについてご説明していきます。
アップデート前半は『【2019年】インド会計・税務アップデートまとめ−前編−』で ご紹介していきます。
2019年7月5日、新国家予算発表
2019年7月、例年では2月に発表される新国家予算ですが、インド総選挙の影響を受けて約5カ月遅れて発表されました。そこでの発表内容を以下の通り抜粋してご紹介していきます。
個人所得税
まず、個人所得税についてですが、高所得者用のサーチャージ(追加税率)が発表されました。具体的には、所得が2000万ルピー超えの個人については、最高税率が増加することになりました。
ただし、上記スライドにあるように、25万ルピー以下の場合には税率は免税となります。
そのほか、25万ルピー超且つ50万ルピー以下だと5%、50万ルピー超且つ100万ルピー以下だと20%、100万ルピー超だと30%の税率が課税されます。
さらに所得が増えると、総所得に応じてそれぞれ下記の通りサーチャージが上乗せされます。
500万 INRを超える場合:算定された税額の10%
1000万INRを超える場合:算定された税額の15%
2000万INRを超える場合:算定された税額の25%
5000万INRを超える場合:算定された税額の37%
加えて、4%の特別追加税(Cess・セス)も課税され、免税(0%)から最大で42.74%までの大きな税率の差が生まれることとなりました。
法人税
続いて法人税については、25%軽減税率の適用範囲が拡大されました。売上40億ルピーまでの法人は、25%の軽減税率が使えます。
そのほか、1000万ルピー以下の法人については、適用実効税率が26%、100万ルピー越え且つ1億ルピー以下の法人は27.82%、1億ルピー越えの法人は29.12%となっており、総じて税率が軽減されています。
キャッシュレス
インドではキャッシュレス経済の促進が推し進められており、政府としても、その対応を強化しています。
その一環として、2019年の国家予算発表では、前会計年度で売上500万ルピーを超える場合、電子決済対応を可能にする事が必要であるとし、2019年11月1日以降に対応されていない場合には、5000ルピー/日のペナルティが課されることとなりました。
さらには、会計年度中に総額1000万ルピーを超える現金を引き出す場合には、1000万ルピー超えの現金引き出しに対して、2%の源泉徴収が行われることが決定しています。
電気自動車
また政府は、キャッシュレス経済とともに電気自動車社会の実現にも力を入れています。
その一環として、今回の国家予算発表では、以下のような3つの点を打ち出しています。
- 電気自動車をローンで購入する場合、金融機関からのローン利息を最大15万ルピーまで個人所得控除として使用可能とすること
- EV関連部品の輸入関税を0%とすること
- EVへのGSTを12%から5%に下げ、EV急速充電器のGSTについても18%から5%に引き下げること
参考情報:GSTの税率表は以下の通りです。
その他
この章の最後に、その他の内容として、日系企業や日本人駐在員の皆さんにとって有意義な情報である以下3つをご紹介します。
- Aadhaarカード
GST承認者に関しては、Aadhaarカードの保有が必須になりました。 - 外国直接投資の緩和
外国直接投資の緩和として、業界別に以下のようなアップデートが行われました。
・単一ブランド小売業界:国内調達基準改正、E-コマースルール緩和
・航空、メディア、保険業界:更なる緩和検討
・保険仲介業、委託生産、石炭鉱業界:100%外国直接投資可能
・保険金支払に対するTDS - 保険金支払いに対するTDSが、1%から5%に変更
以上、3点についてもご注意いただければと思います。
2019年9月20日、新税率とMATに関するアップデート
続いて、新税率とMAT(最低代替税・Minimum Alternate Tax)に関するアップデート内容をご紹介していきます。結論としては、以下のようなアップデートがなされています。
- 内国法人は法人税率22%が選択可能
- 内国法人の製造業は法人税率15%が選択可能
⇒条件:2019年10月1日以降の設立、2023年3月31日までに生産開始 - 内国法人は最低代替税(MAT)の支払い不要
- 上記変更点は、2019/2020年度より適用可能
※外国企業やLLPは本軽減税率の対象外
※現状免除措置やインセンティブを使用している場合は、それらを使用しない事が使用条件
上記アップデート内容について詳しくご紹介する前に、まず大前提として、現状のインドにおける法人種類別の税率区分を確認していただこうと思います。
上記スライドの通り、インドではPrivate Company (Pvt. Ltd.) などの内国法人の基本税率は30%、駐在員事務所やプロジェクトオフィス、支店などが該当する外国法人は同40%、有限責任事業組合(LLP)は同30%となっています。
加えてインドでは、基本税率の他に追加課徴金、健康教育目的税という2種類の税金を掛け合わせた実効税率と呼ばれる税率が課されまていす。以下のスライドの通りとなっていますので、確認してみてください。
これが、2019年のアップデートにより、Private Company (Pvt. Ltd.) などの内国法人の税率に大きな動きが見られました。
国家予算時に発表された軽減税率対象範囲の拡大とはまた別に、9月20日に新しく発表された新しい税率を加え、現状既存の企業には上記「30%」「25%」「22%」の法人税率の選択肢が設けられました。
また、2019年10月1日以降設立、2013年3月31日までに生産開始を行った製造業に関しては、「15%」の税率が適用可能なためです。
合わせて、表の通り4つほど注意点があることもご確認いただければと思います。

【2019年】インド会計・税務アップデートから考える、傾向と今後
それでは本記事の最後に、インドにおける2019年会計税務アップデートから見た傾向と、今後の予想についてご紹介します。以下のスライドをご覧ください。

まず、今後の傾向としては、法人税の「減少」や所得税の「増加」が予想されます。また、外資規制の緩和が今後も続くことが考えられます。そのほか、日系企業を含む外資企業にとってインド進出、インドビジネスの大きな壁となっていた煩雑な各種処理の簡素化も期待されています。
さらには、ブラックマネーや貸し倒れを抑制していくこと、さらなるキャッシュレス社会の推進、自動車業界の不況への迅速な対応も求められていくことが考えられます。
今回の新型コロナウイルスによる経済低迷も心配されている中、今後のインド政府の会計税務に関するアップデートには、今まで以上に注目していく必要がありそうです。
本記事では、2019年のアップデート内容を振り返りました。
2019年の1年だけでも所得税の税率が追加されたり、法人税率に至っては2回もアップデートが入っています。
特に法人税に関しては、インドの会計年度(4月-3月)の中で約半年経過している9月20日の段階で、その期から適用開始の税率が発表されたという部分もインドの大胆さと強引さを感じられます。
本記事が、毎年変わりゆくインドのルールの中で、どのような準備をして対応しなければいけないのかの参考になれば幸いです。

税理士法人日本経営(現 日本経営ウィル税理士法人)に入社後、主に税務顧問・財務コンサルティング業務に従事し、2016年よりタイの提携事務所に2年間出向。日系企業の進出支援や記帳代行サービス、保険業務の日本人コーディネーター業務を行う。 2018年11月よりインド(デリー/グルガオン)へ赴任。
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