インドでは、現地スタッフにより不正が起きやすいという実態データがあります。
JETROの報告書では、「2017 年に実施された不正実態調査に拠れば、78%の企業において不正発見件数が増加、不正が発覚した企業のうち 68%が直接的な影響を受けたと回答」。
ここでは、どういった企業が不正リスクを抱えており、具体的にどういった不正が起きているか、また、不正に対する対応策についてご紹介します。

インドで不正が起きやすい背景と企業の条件
インドで不正件数が多いのには理由があります。 例えば、日本人駐在員と現地スタッフの待遇やインド人上級職員の違い、日本本社からの過度なプレッシャー、日本人駐在員が会計業務に関与していない、などは不正が起こる十分な動機になりえます。 背景・文化(倫理観)の違いも安易に不正に手をつけてしまう理由の一つでしょう。
また、会社の構造上、職務分掌やローテーションが行いづらく、各人への明確な業務内容・権限・責任の範囲が曖昧であることも背景にあります。 システム面では、インドで一般的に使われているERPソフトであるTallyの脆弱性(データの非統合、機能の非連動、元データの編集機能等々)も要因の一つかもしれません。
その他にも、不正を起きやすい企業には多くの共通点があります。 以下にチェックリストを作成しましたので、貴社が該当するかどうかまずは確認してみましょう。
100%子会社より合弁会社 | |
ローカルの監査法人の監査しか受けていない会社 | |
距離が遠い(物理的・業種・資本関係)会社 | |
日本人駐在員がいない会社 | |
日本人駐在員が管理向きではない(エンジニア出身や営業出身者) | |
会計及び購買担当者(特に支払い担当者)の勤務年数が長く、ローテーションもない | |
労務上の問題が多い(離職率、残業・休日出勤が多いetc) | |
日本親会社の管理部門とのコミュニケーションが十分ではない |
このように、日本人による現場での管理体制が整っていない企業様は特に注意が必要です。

インド不正の種類と事例
不正には、大きく「不正な財務報告」と「資産の流用」の2つのパターンがあります。
不正な財務とは
報告資産の運用とは異なり、キャッシュは動きません。
- ないはずのものがある
例えば、有形固定資産(例えばPCなど)の資産価値がゼロになったので、処分をした、はずなのに現物が会社内に存在している。 - あるはずのものがない
例えば、在庫表には数百個あるはずの機器が、棚卸しを行った結果、数十個しか存在していない。 - ないはずのときにある
例えば、売上の計上を早める、損失の計上を遅らせる。
といったケースです。
資産の流用による不正とは
単純に現金(会社金庫等)の横領、棚卸資産が小型かつ高額(換金可能)、旅費交通費等の関して監視が不十分、等々
①損益計算書に直接影響させる
②損益計算書に直接影響させない
インドで起き得る具体的な不正事例
海外子会社で、多い具体的な不正は以下があげられます。
資金関係 | 横領 |
売上関係 | 架空売上/売上の先行計上 売上代金の横領 |
仕入れ関係 | 購買担当者への不正なキックバック(リベートの横領も含む) 親族企業への優先発注 |
製造関係 | 在庫水増し 在庫の横領/スクラップの無断売却 |
経費 | 個人経費の付け替え |
その他 | 損失隠し/費用計上繰延 |

インド不正の事例と対策
それでは、インド不正現場をより具体的にイメージしていただくために5つの事例をスライドでご紹介します。合わせて、対応策についても解説します。
不正事例1:キックバックで資産の流用
【原因】
日本人駐在員の承認プロセスがなく、インド人スタッフと知り合いの業者が容易に不正をできる体制で起きやすい不正です。その後、不正を抑制するための仕組みがなく、一人のインド人担当者が長期的にキックバックを受け取り、不正被害が巨額になるケースも多くあります。
【対応策】
下記のような、社内の仕入先プロセスや社内のローテンションの導入をおすすめします。
・仕入れ先選定の際に、複数人(日本人含む)が承認するプロセスを取る
・仕入れ先選定の際に、他業者との相見積もり等比較がなされている
・定期的に仕入先価格の見直しや相場金額との比較が行われている
・定期的に製品毎の原価率等をモニタリングする
・定期的に担当者のローテーションを行う
インドではキックバックが非常に多くの場面で行われています。信頼しているスタッフであっても、そのスタッフを疑わなくて良いように対策を進められた方が良いと考えます。
不正事例2:架空・水増し経費精算で資産の流用
【原因】
インドでは手書きの証憑なども一部存在します。厳格な証憑の提出の規定やペナルティなどがないため、主に会計や購買担当者とその他のインド人スタッフが協力しあい、架空の水増しが行われることがあります。日本人による、証憑との突合を含んだ承認プロセスがない、事前承認のプロセスがない企業も多いという背景があります。
【対策】
下記のような、経費承認プロセス、システムの導入を推奨します。
・経費精算システムの導入
・証憑添付の義務化
・定期的な立替経費内容の確認制度(複数確認や相互確認)
・事前承認無しで一度に使用可能な金額の上限を設定 など
スタッフ立替費の精算工程の中で、証憑資料まで確認出来いない会社もあるかと思いますので、不正が起こらないようにする為にも日本人がランダムに確認する等の牽制を入れられる事をお勧めします。
不正事例3:架空の仕入れ先と架空請求で資産の流用
【原因】
前事例と同じく、社内のインド人スタッフが結託して架空の仕入先を仕立てるといケースがあります。こちらも日本人による承認プロセスがない。厳格な、仕入先選定や請求書や必要情報、書類の提出などが厳格化されていないという背景があります。
【対策】
下記のような、経費承認プロセス、システムの導入を推奨します。
・複数人による請求書の承認プロセス
・定期的な仕入れ先の棚卸
・新規仕入先への支払時の制度構築(HP情報や登記情報の提示など) など
こちらは複数スタッフがチームになっているので、見つけるのが難しい事例ですが、定期的な仕入先の棚卸等を行う事で牽制をかけて頂ければと思います。
不正事例4:会社備品や在庫横流しで資産の流用
【原因】
こちらは、「あるべきものがなくなる」というケースですね。インド人スタッフに在庫関連の管理を任せきりにしている場合に、おきえます。
【対策】
下記のような、在庫管理ルールの導入を推奨します。
・定期的な実地棚卸と管理者(駐在員が望ましい)の立ち合い
・在庫評価ルールの明確化
・定期的な会計資料と現物の擦り合わせ など
スタッフによってまとめられた数値を見るだけで完結せず、定期的に現場にも足を運んで確認を行うようにして頂ければと思いす。これは在庫だけのケースで無く固定資産や現金管理等も同じであると言えます。
不正事例5:請求金額の数字を改ざんし不正な財務報告
【原因】
利益の減少を招く過度な競争が起きている(外部環境)、経営層や日本本社から売上や利益拡大のプレッシャーが強い(内部環境)場合などに、おきえます。
【対策】
・市場環境と自社の状況を経営者が理解をし、日本本社と整合をとる
・定期的な債権債務の棚卸
・在庫評価ルールの明確化
・定期的な会計資料と現物の擦り合わせ など
こちらもランダムで良いので、不正が起こりうる可能性があるプロセスを、定期的に日本人や第三者を用いて、確認を行う必要があると考えます。
インド海外支店における不正を防ぐためには、ガバナンスの強化が求められます。ガバナンス強化の詳細については 「インド海外子会社の不正防止のための5つのポイント」でご紹介します。
参考元:JETRO
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2019/d704f77a14f5a3f5/in201901.pdf
インドでビジネスを行っていく上では、インド人スタッフとの協力が不可欠です。大切なスタッフを信頼し、長く一緒に働いていく為にも、疑わなくて良い仕組みを構築していく必要があります。弊社でも不正対策のリストを本社と相談の上、現地日本経営スタッフが現場を確認するサービスを展開しております。必要な場合はお気軽にご相談ください。

税理士法人日本経営(現 日本経営ウィル税理士法人)に入社後、主に税務顧問・財務コンサルティング業務に従事し、2016年よりタイの提携事務所に2年間出向。日系企業の進出支援や記帳代行サービス、保険業務の日本人コーディネーター業務を行う。 2018年11月よりインド(デリー/グルガオン)へ赴任。
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