本記事では、インドにおける個人所得税に関して解説していきます。個人所得を算出するためには、まず居住判定と課税範囲を理解する必要があります。順を追って、解説していきます。
2020-21会計年度より有効になった、個人所得税の選択性についてもご紹介しておりますのでご確認願います。

インド個人所得の基本「居住判定」と「課税範囲」を理解しよう
まずは、インドの個人所得税についてご紹介する前に、ご自身のインド個人所得税との関わり方について把握していただこうと思います。なぜなら、ご自身のインドとの関わり方によって、所得税の課税範囲が大きく異なってくるからです。
そこで最初に、インドにおける「居住判定」と、それに紐づく「課税範囲」についてご紹介していきたいと思います。
居住判定をしよう
インドでは、居住判定と呼ばれる居住区分によって、インドで課税しなければいけない所得が異なります。
特に日本に給与以外の所得がある方や、頻繁に日本とインドを往復しているような方は注意が必要です。そこで、まずはご自身の居住性について理解し、インドの所得税が自身にどのように関係しているのかを整理しておきましょう。
それでは早速、居住判定についてご紹介していこうと思います。以下のスライドをご覧ください。
インドでは、大きく分けて3種類の居住区分があります。この3種類に対して、ご自身がどの区分に当てはまるのか判断することを、居住判定と呼んでいます。
それでは、一つずつ居住区分の条件について見ていきましょう。通常の居住者
まず一つ目が「通常の居住者」と呼ばれる区分です。
- 当該会計年度に182日以上インドに滞在した場合
- 会計年度中に60日以上インドに滞在、かつ当該会計年度前の過去4会計年度期間で365日以上インドに滞在している場合
の、上記のいずれかを満たした場合に該当します。赴任初年度が居住者の場合は、基本的にインド居住歴3年目以降から該当する事となります。
非通常の居住者
続いて二つ目が「非通常の居住者」です。
- 会計年度前の10年のうち、 過去9会計期間は非居住者
- 会計年度前の過去7会計年度 期間の滞在日数が729日以下の場合
- 「通常の居住者」に該当したうえで、上記を満たした場合
に該当します。インド居住歴が3年未満の駐在員の方などがこれに当たります。
非居住者
そして最後、三つ目が「非居住者」です。
これは文字通り、インドに住んでいない人のことを指し、日本からの出張者などが該当します。
居中者判定に沿って、居住別課税範囲を確認しよう
居住判定を通して、ご自身のインドにおける個人所得に関する立場を整理いただけたかと思います。ここからは、そのご自身の立場によって、課税範囲がどのように違ってくるのかを確認していこうと思います。
それでは、以下のスライドをご覧ください。
ご自身が該当する居住範囲をご確認ください。
まず、「通常の居住者」に該当する方は、課税対象が全世界所得となるため、日本で受け取っている不動産収入等も課税対象に含まれるということが分かります。
また、「非通常の居住者」の方の場合、「非居住者」の課税対象に加えて、日本などインド国外で受け取っている所得であっても、その所得がインドで関わっている活動から発生している場合、その所得についても課税対象に含まれます。ここは、注意が必要です。
そして最後に、「非居住者」の方の場合ですが、この場合はインド国内で受け取った、あるいは発生した所得が課税対象になると規定されています。

インド個人所得税の概要と、選択性
それでは、ここからはインドの課税対象所得税率と所得控除についてご紹介していきますが、その前に、まずはインドの個人所得税について簡単にご説明できればと思います。
課税対象所得税率と納付
まずは、インドの個人所得税に関する課税期間ですが、4月1日~3月31日と定めれれています。日本の1月1日~12月31日とは異なりますので、ご注意下さい。
続いて、給与・賞与にかかる所得税についてですが、こちらも日本同様、雇用者が源泉徴収し、翌月7日までに納税を行う仕組みとなっています。
確定申告書については、7月31日までにオンラインで提出する決まりになっていますが、直前になって期限が延長される場合も多いので、期限延長などの情報を適宜収集される事をお勧めします。
課税対象所得と個人所得税率
課税対象所得と個人所得税率は、以下の表の通りです。
課税対象所得 | 税率(※3) |
25万ルピー以下 | 免税(※1) |
25万ルピー超、50万ルピー以下 | 5% |
50万ルピー超、100万ルピー以下 | 20% |
100万ルピー超 | 30%(※2) |
(※1)非課税上限額については、60歳以上80歳未満の高齢者は30万INRまで、 80歳以上の超高齢者は50万INRまでとなる
(※2)総所得に応じてそれぞれ下記の通りサーチャージとして上乗せされる
500万INRを超える場合:算定された税額の10%
1000万INRを超える場合:算定された税額の15%
2000万INRを超える場合:算定された税額の25%
5000万INRを超える場合:算定された税額の37%
(※3)上記で算定された税額合計に4%のセスが課される
そして、給与・賞与以外にかかる所得税についてですが、こちらは見積もり税額が1万ルピー以上の場合は、年4回の予定納税が必要になります。給与・賞与以外の所得だけの場合でも確定申告書は、給与・賞与と同様に7月31日までにオンラインで提出する必要があります。
予定納税期限
予定納税期限は下記の表の通りとなっています。
納付期限 | 納付税額 |
6月15日 | 年間見積税額の15% |
9月15日 | 年間見積税額の45% |
12月15日 | 年間見積税額の75% |
3月15日 | 年間見積税額の100% |
所得控除の概要
続いて、皆さん気になるであろうインドにおける所得控除についてご紹介します。以下のスライドをご覧ください。
まずは、給与所得からの基礎控除についてですが、こちらは5万ルピーと規定されています。そのほか、通勤手当控除の1.92万ルピーに関しては、所得税非課税枠が月最大1,600ルピーなので12ヵ月換算した数値を記載しております。
続いて、家賃控除についてですが、こちらは以下のように定められています。
- 家賃手当支給の上、スタッフが個人支払いの場合
「家賃手当の年間総額」「基本給年間総額の40%」「年間家賃支払総額-基本給年間総額×10%」の何れか、少ない金額を非課税扱いとする。 - 会社が家賃を支払い、現物給与として貸与している場合
「基本給年間総額×15%」「年間家賃支払総額」の何れか。少ない金額を課税する。
※会社が現物支給として車を無償貸与している場合は、家賃同様課税対象となります。
その他にも、生命保険控除や医療費控除等もあります。詳細をお知りになりたい方は、お問い合わせいただければと思います。
インドの個人所得税の選択性とそのポイント
最後に、2020-21年より有効になった、個人所得税の選択性についてご紹介したいと思います。以下のスライドをご覧ください。
税率については上記の通りで、新制度はより細かく所得範囲と税率が分かれています。
税率だけを見ると日本人は最高税率での課税が少なくないため、新制度の方が所得税が少なくなるケースが多いと考えられますが、安易な意思決定は危険です。
控除に関しては、下記の通り規定されています。
現在発表されている内容では、「障害のある従業員に与えられた通勤手当控除」や「通勤手当控除」、「事業目的での出張交通費控除」など、限られた項目のみが新制度では控除可能とされています。
従来制度では使用できていた「給与所得基礎控除」や「家賃控除」などは使用できなくなるため、自分自身の所得を見直し、従来制度か新制度のどちらが有利かを十分検討した上で申告を行う必要があります。
また、上記内容は2020年4月-2021年度3月末分の申告より有効となり、事業所得のない個人については、会計年度毎に使用する制度を選択出来ます。
こちらは、課税所得を200万INRと仮定して、それぞれの税率での所得税を算出してみた例となります。
結果、従来税率表と新制度を比較すると75,000INRの差額となりました。やはり単純な税率表だけで見ると新制度の方が所得税が少なくなりますので、この差額と、自身の使用できる所得控除のバランスを見て有利・不利の判定を行う必要があります。
個人所得税は選択性
最後に、個人所得税の選択性についてまとめて終わりにしたいと思います。
まず一つ目に重要なポイントは、事業所得のない個人については、会計年度毎に使用する制度を選択出来るということです。年度毎に、どちらがご自身にとって有利かどうかを判断いただければと思います。
続いて、追徴税(サーチャージ)、教育目的税(セス)に関してですが、従来の制度同様、総所得に応じて、それぞれ下記の通りサーチャージとして上乗せされることに注意が必要です。
- 500万 INRを超える場合:算定された税額の10%
- 1000万INRを超える場合:算定された税額の15%
- 2000万INRを超える場合:算定された税額の25%
- 5000万INRを超える場合:算定された税額の37%
加えて、上記で算定された税額合計に4%のセスが課されます。
今までのインド所得税は、「税負担が重い」「控除項目が少ない」等の課題はありましたが、制度自体は比較的シンプルなものでした。しかし、今回新たな改正が入った事により、税率表2つのパターンから自身が有利な方を選択できるという「検討/検証」の必要な複雑な制度となり、自身が理解して納得して判断しなければいけない制度へと変わりました。駐在員の多くは所得税が会社負担等になっているケースも多いので、直接自分には関係が無いと考えてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、法人から見れば駐在員の所得税負担は非常に大きな支出となります。この機会にご理解頂き、ご納得頂いた上でインドに税金を納めていけるよう、本記事を活用頂ければと思います。またその他不明点等御座いましたら、お気軽にお問い合わせ下さい。

税理士法人日本経営(現 日本経営ウィル税理士法人)に入社後、主に税務顧問・財務コンサルティング業務に従事し、2016年よりタイの提携事務所に2年間出向。日系企業の進出支援や記帳代行サービス、保険業務の日本人コーディネーター業務を行う。 2018年11月よりインド(デリー/グルガオン)へ赴任。
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