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インド 移転価格税制の基礎知識と申請時の必要書類

今回は、日本に本社を持つ日系企業がインドへ進出する、インドでビジネスを展開するにあたって直面するインド税制の一つ、移転価格税制についてご紹介してきたいと思います。ぜひ、自社のビジネスに活かしていただければと思います。

移転価格税制とは

ここでは、まず移転価格税制についてご紹介したいと思います。

インド 移転価格税制

まず、上の図をご覧ください。このように、本社である日本法人が商品Aを販売したとします。顧客である業者とは1500円で取引しましたが、グループ会社であるインド法人とは、3分の1の500円で取引しました。今回のようなグループ会社間での取引では、その取引額をグループ内で決定できるため、必ずしも第三者間での取引で採用されている価格とは一致しません。

そこで困るのが、現地の税務当局です。価格が、全てグループ内で意思決定されてしまうと、企業にとって都合の良い“利益操作”が行われてしまい、各国税務当局は想定される税収を得られなくなる事態が起こってしまうのです。

そこで、グループ間取引の価格決定を制限し、“とりっぱぐれ”のないようにと設けられたのが「移転価格税制」です。

スライドにある例の通り、これは各国の税務当局が不当な課税所得の減少を防止し、自国の課税権を確保するための規定であると言えます。この移転価格の対象物としては、「財・サービス」と「資金」の2種類の考え方が存在し、これには商品や製品などのモノのほか、原材料などの中間財、ロイヤリティやマネジメントフィーのほか、借入金の利息なども含まれてきます。

インド 移動価格税制 ルール

この移転価格税制について、日本では1986年に租税特別措置法という法律で定められています。インドでは、海外直接投資の増大やグローバル化の波を受け、2001年4月から導入されています。

しかし、国が違えば移転価格税制の内容も少し変わってきます。そこで今回は、皆さんのインドでのビジネスに大きく関係する、インドにおける移転価格税制について、もう少し詳しくご説明していきたいと思います。

インドにおける移転価格税制とは

ここからは、インドにおける移転価格税制の対象者とその概要、そして価格の算定方法について見ていきたいと思います。

インド 移転価格税制 対象

まずは、インドにおける移転価格税制の対象者についてですが、これを「国外関係者」と表現しています。しかし、ただ国外関係者と言われても、その意味を想像できませんよね。

この国外関係者について紐解いていくと、持株関係、実質的支配関係の2軸によって定義されています。

インド 移転価格税制 対象

まず、持株関係とは、2者のうち一方が、他方の株式等の26%以上を保有している関係を指します。
また、実質的支配関係とは、下記の4点に該当している関係を指します。

  • 一方の法人が他方の法人の取締役のうち過半数を占めている
  • 一方の法人が他方の法人の純資産のうち51%以上の額を貸し付けている
  • 一方の法人が他方の法人から91%以上の原材料供給を受け、その価格や条件に影響を受けている
  • 保有するノウハウ、特許、商標、フランチャイズ、ライセンス等に完全に依存している

いかがでしょうか。自社の法人は持株関係、もしくは実質的支配関係に該当していましたか。

この持株関係、もしくは実質的支配関係に該当する法人が国外関係者と呼ばれ、移転価格税制の対象となります。
この記事を読んでくださっている日系企業の皆さんは、多くの場合が国外関係者に当たると思います。次のスライド以降の移転価格税制の説明についても目を通していただき、理解を深めていただければと思います。

インドにおける移転価格税制、独立企業間価格(ALP)とは

ここまでは、インドが定める国外関係者は、移転価格税制に該当するというお話をしてきました。ここからは、本題となる移転価格税制について、具体的にご説明していきたいと思います。

インド 移転価格税制 概要

まず、インドの移転価格税制ですが、所得税法に規定されています。 移転価格税制中では、一方もしくは両方がインド非居住者である、2者以上の関連取引間で行われる国際取引によって発生した所得は、独立企業間価格(ALP)(※1)に基づいて計算されなければならないことになっています。

カンタン用語解説
※1  独立企業間価格:支配関係のない独立第三者間の取引において適用される価格

 

また、所得税法に規定されている直接関係にある者、免税者と緊密な関係にある者とのインド国内での取引「特定国内取引」についても、ALPに基づいて計算されなければならないとされており、現在は年間2億インドルピー超の場合に適用されています。

このインドにおけるALPの算定は、おおむねOECDガイドライン(※2)に則って作成されています。

カンタン用語解説
※2  OECDガイドライン:OECD租税委員会が多国籍企業に関する移転価格、および関連する税務上の問題について、各国の税務当局と多国籍企業双方にとっての解決策を示したもの

 

ALPの算定には、上のスライド下部に記載している1~5のうち、取引の性質や規模、関連者の種類、取引の機能の類似性、情報の入手可能性等を考慮し、最適な算定方法を選択することとなります。そして、計算された複数の算出値の平均が、ALPとして扱われることになります。

しかし、インドではALPの許容幅が決められており、納税者の移転価格の上下3%以内としています。そのため、この許容幅内に、算定されたALPの平均値が収まっていれば妥当だと判断されるようになっています。 この許容幅から大きく外れていると、税務当局からの所得更正の対象となりますので注意しましょう。

インド 移転価格税制申請時の必要書類

そして、インドにおける移転価格税制の対象者は全て、直接税中央委員会(CBDT)の定める情報および文書を作成・保管しなければならない決まりとなっています。ただし、税務調査官に求められるまで、提出の義務はありません。保管義務期間は8年間となっています。

また、インドでは移転価格コンプライアンスとして、移転価格文書の作成と会計士証明 (Form3CEB)の入手が規定されていましたが、2016-17年度からOECDのBEPS行動13に基づいている、3つの移転価格文書 「マスターファイル」、「国別報告書」、「ローカルファイル」の整備が求められるようになりました。

そこでここからは、マスターファイル、国別報告書、ローカルファイルについてご紹介していきたいと思います。

インド マスターファイル

まず一つ目は、マスターファイルです。

マスターファイルとは、グループ全体の概要・基本情報を記載する文書で、グループ構成企業で、

1. その親企業の直前会計年度における国際グループの連結収入が、50億インドルピー超で且つ
2. その会計年度でのインドの構成企業との国際取引が5億インドルピー超、もしくは無形資産取引(無形資産の購入、売却、使用など)が1億インドルピー超である場合

に、マスターファイルの作成が必要になります。


このマスターファイルには、申告フォームとして以下の2つが用意されています。

1、Form3CEAA
Part A:構成企業の名称・住所・PAN 番号、グループの名称と住所を記載する
Part B:グループの概況 (組織構造、事業説明、無形資産、金融活動、財政状況・納税状況)を記載する

2、Form3CEAB
インド国内に複数のグループ構成企業がある場合に、マスターファイルを申告する構成企業の情報を届け出る

Form3CEAAの申告期限は、11月30日です。電子申告形式、所得税申告書への署名資格を有する人物の電子署名認証(Digital Signature Certificate:DSC)を添付する必要があります。Form3CEABの申告期限は異なり、11月1日となっていますので、注意しましょう。

インド 移転価格税制 国別報告書

続いて、国別報告書では、グループの所得・納税の配分と事業概況、国別子会社の概況を記載します。

親会社または代理企業であるインド居住者で、グループの直前会計年度の連結グループ収入が550億インドルピー超である場合には、国別報告書を規定するRule10Dが適用されます。

国別報告書関連では、以下3つの申告フォームが用意されています。

1、Form3CEAC
インドの構成企業とグループの名称・住所等と、インドの構成企業が代理企業に該当するかどうかを届け出る。

2、Form3CEAD
Part Aに所得・納税の配分状況と事業の状況、Part Bにグループに含まれる構成企業のリストとその情報を記載する。

3、Form3CEAE
グループ親会社の居住国が、インドと国別報告書の自動情報交換合意を結んでいない場合、もしくは国別報告書の制度がない場合に、インドで国別報告書を申告するインドの構成企業の情報を届け出る 。

※日本とインドは、ともに自動情報交換に関する多国間合意に参加し合意を発効させているので、必要ありません。

 

Form3CEACは、所属するグループの連結グループ収入が上記の基準に該当する場合、インド構成企業は必ず提出しなければなりません。

また、Form3CEADについては、インド国外の親企業が、その居住地国で国別報告書を提出する場合には、インドでの申告は不要となります。

Form3CEADの申告期限は、会計年度末後12カ月以内で、Form3CEAC はその2カ月前が申告期限となっています。こちらも、マスターファイル同様、電子申告で、電子署名認証(Digital Signature Certificate:DSC)の添付が必要となりますので、注意が必要です。

インド 移転価格税制 ローカルファイル 会計士証明

最後に、ローカルファイルとは、従来インドで導入されていた移転価格文書のことを言います。

関連者との国際取引が年間1000万インドルピー超である場合には、国際取引が独立企業間価格に基づくことのベンチマーキングと、その文書化が義務付けられており、経済分析を含む詳細な文書化が必要となります。

ローカルファイルについては、特に申告が求められていませんが、税務当局からの求めに応じて提出しなければならないこともありますで、覚えておきましょう。

 

加えて、会計士証明(Form3CEB)という文書も必要です。

会計士証明(Form3CEB)とは、納税者が移転価格に関して適切な情報に基づき、適切に文書を保持していることを証明する文書です。勅許会計士(Chartered Accountant)が Form3CEBというリポートを発行して証明します。

 

Form3CEBの入手・申告義務には金額基準はなく、1インドルピーでも関連者間国際取引があれば、納税者は勅許会計士からForm3CEBを入手しなければなりません。従って、上記の文書化の規定にかかわらず、納税者は勅許会計士から Form3CEB による証明を入手するに足る、一定の文書を整備しておかなければならないということになります。

この場合の文書は、Form3CEBのPart Bで開示される取引情報の根拠資料として整備し、一般に上記のローカルファイルに比べて限定的な内容となります。

Form3CEBは所得税申告に必要なもののため、所得税申告期限 (移転価格税制が適用される場合は11月30日) までに勅許会計士から入手し、所得税申告に先駆けて電子申告サイトにアップロードする必要がありますので、ご注意ください。

 


「移転価格税制」と聞くだけで、「自分はもうわからない」と思ってしまう方も多いのではないでしょうか。確かに、一つひとつの言葉は難しいのですが、この制度の意味やルールを理解していくと、国同士の税金ルール上当たり前の事ばかりが書かれており、難しい事は説明されていないことに気づけます。

細かな評価方法の種類まで全て理解する必要はないかと考えますが、それでも大枠で理解し、何がリスクとなるのかという部分はしっかりと把握して頂ければと思います。

また、インドにいると「インドでは移転価格税制が厳しい」という事をよく耳にします。
事実、下記のような部分は日本と比較すると厳しいと言えるかも知れませんので、注意が必要です。

・ローカルファイル作成要件が低い
・理不尽な税務調査対応の対象とされる事が多い

そして、「インドのローカルファイル作成基準が低い」事に関しては、親会社側でポリシー等を考慮せず、インド側だけで独自で作成してしまうケースが非常に多いので、注意が必要です。

作成済のローカルファイルがあれば、随時日本本社と共有し、問題がないかを確認するようにしましょう。

古東 翔二朗(インド法人責任者)

税理士法人日本経営(現 日本経営ウィル税理士法人)に入社後、主に税務顧問・財務コンサルティング業務に従事し、2016年よりタイの提携事務所に2年間出向。日系企業の進出支援や記帳代行サービス、保険業務の日本人コーディネーター業務を行う。 2018年11月よりインド(デリー/グルガオン)へ赴任。

【免責事項】
本記事でご提供するアドバイス及び情報等は、記事作成時点で私どもが把握している事実及び情報、法律等に基づいています。また、本記事内でご紹介させていただいた内容のうち、法律・制度に関するものは、一般的な内容を分かりやすく解説したものです。貴殿の実行及び意思決定等につきまして、弊社は助言の範囲を超えるものではないことをあらかじめご了承ください。 

インド 会計事務所

 

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